祖父というものが、好きだった。
祖父達が好きだった。
僕にとっては、ふたりしか知らないが、どちらも好きだった。
ひとりは、早く死に。
ひとりは、早く死んだ。
随分、昔の話だ。
帝国陸軍で、行軍の鉄砲ダコが肩を覆っていた祖父。
リウマチに苦しみ、風呂で呻いていた祖父。
僕に玩具を与え、母に怒られていた祖父。
写生をよく付き合ってくれた祖父。
ひとりは何も言わず、速やかに逝き、ひとりは事細かに物言い、「後は頼む」を僕に渡した祖父。
「後は」の「後は」はなんだったのだろう?
ふと想う事がある。
幼い時の悲しいふたつの出来事。
あれだけ悲しかったのに、忘れた。
喪失感よ何処。
何度もいうようだが、ダリアの東窓は、少し出窓になっている。
昨夜深夜まで賑。
誰もいない店内で、煙草の火を消した。
照明を落とし、エレベーターを呼び上げる。
その間、約40秒。
出窓に写る人影。
ソフト帽に、黒縁眼鏡、ツィードコートの猫背の男。
祖父がいた。
「キンコーン」の音で開くエレベーターの扉。
暗い店内に、エレベーター内の光が射し込んだ。
消える人影。
もういちど見る出窓には、当然僕の姿。
無言で乗り込むエレベーター。
写っていたのは、当然祖父に良く似た自分の姿だった。
さすがに閑散の深夜の三条通り。
FMのバドワイザーが光っていた。
東へ歩き出す。
僕が、祖父なのか?
祖父が僕なのか?
僕は、僕なのか?
疲れた身体と痛む足を引き摺り歩いた。
ノルベサの辺りにまだ人気。
「ここは昔、広い青空駐車場だった」
何の脈絡もなくそんな事を思い、家路を急いだ。
既視感
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