2010年3月の記事一覧
祖父というものが、好きだった。
祖父達が好きだった。
僕にとっては、ふたりしか知らないが、どちらも好きだった。
ひとりは、早く死に。
ひとりは、早く死んだ。
随分、昔の話だ。
帝国陸軍で、行軍の鉄砲ダコが肩を覆っていた祖父。
リウマチに苦しみ、風呂で呻いていた祖父。
僕に玩具を与え、母に怒られていた祖父。
写生をよく付き合ってくれた祖父。
ひとりは何も言わず、速やかに逝き、ひとりは事細かに物言い、「後は頼む」を僕に渡した祖父。
「後は」の「後は」はなんだったのだろう?
ふと想う事がある。
幼い時の悲しいふたつの出来事。
あれだけ悲しかったのに、忘れた。
喪失感よ何処。
何度もいうようだが、ダリアの東窓は、少し出窓になっている。
昨夜深夜まで賑。
誰もいない店内で、煙草の火を消した。
照明を落とし、エレベーターを呼び上げる。
その間、約40秒。
出窓に写る人影。
ソフト帽に、黒縁眼鏡、ツィードコートの猫背の男。
祖父がいた。
「キンコーン」の音で開くエレベーターの扉。
暗い店内に、エレベーター内の光が射し込んだ。
消える人影。
もういちど見る出窓には、当然僕の姿。
無言で乗り込むエレベーター。
写っていたのは、当然祖父に良く似た自分の姿だった。
さすがに閑散の深夜の三条通り。
FMのバドワイザーが光っていた。
東へ歩き出す。
僕が、祖父なのか?
祖父が僕なのか?
僕は、僕なのか?
疲れた身体と痛む足を引き摺り歩いた。
ノルベサの辺りにまだ人気。
「ここは昔、広い青空駐車場だった」
何の脈絡もなくそんな事を思い、家路を急いだ。
昨深夜は雨だった。
一雨一雨、この北の街に春をもたらすのだが、昨夜疲れ果てての仕事終わりの雨には、少し閉口した。
気温が高くなってきているのだろう。
一転、今は雪景色だ。
客足が遠退きそうな、白のカーテン。
外を眺めると、そのような。
突然だが、車の故障により、徒歩通勤になっている。
10年選手の我が愛車。
疲れたようだ。
先月からの身体の不調に加えての災難。
年度末には、何かがある。
気分を改めるに、冬物のズック靴をスニーカーに改めた。
足元軽しは、気分もまた。
只、この雪が積もると帰りの足元は危うい。
営業車での帰宅になる。
どうも昔から営業車の当りが悪い。
ぞんざいな方に当たる事が多く、帰り路に不愉快も度々ある。
皆が皆というわけでもないのだが、マナー向上を願う。
店を暗くしてエレベーターに乗る。
ビルの施錠をして、僕の仕事は終わり。
視線を三条に移し、贔屓の営業車を探す。
彼に会えると嬉しくなる。
控え目なもの言いの運転手さん。
「また、あいましたね」
「いつも、ありがとうございます」
このやりとりが、至極幸福感。
今日は、彼は待っていてくれるだろうか。
僕の深夜の運試し。
あと6時間後。
当然ながら、大吉を願う。
確か、「フェリスはある朝突然に」といったタイトルだったと思うが、中学一年の夏休み友人達と映画を見に行った。
ふと思い出した。
甲子園の決勝の日で、そちらが見たかったのだが、仕方なく付き合ったように思う。
シェーキーズの食べ放題を食べた。
当時、映画には同時上映というものがあり、そちらはHなB級だった。
どちらかといえば、そのHなのが良かった。
思春期の入り口にいたせいか、ドキドキした記憶がある。
思春期の連続の中に今があると思う。
その中で20代半ばから、30代にかけては、それなりに激動だった。
只、間小休止があり、僕の場合その事由は、外科手術による二度の入院だった。
二ヶ月と四ヶ月に及んだ。
入院は、僕にとってかなりの非日常体験だった。
特に最初のそれは、それが濃く。
整形外科の場合、重度軽度の差はあれど、患部以外は健康な人が多い。
当然、殆どの人はそれでも動きに不自由を発するが、食事の制限も少なく、ある角度から見れば、とても元気だ。
最初、病室、やがて病棟。徐々に人間の序列がおきる。
春のクラス替えのようなものが、人の入退院の度に発生する。
皆、それぞれオペを受ける方々ばかりなので、それはそれで人生の一大案件で、そこを掘り下げる所から、コミュニケーションは生まれるケースが多かった。
後は、圧倒的に噂話だ。
そんなこんなで、非日常は、日常に変化し、リーダー的な人間、人に悪く言われる人間などの区分がおきてくる。
それが、楽しい時もあったのだが、下世話になっていくのも強く感じた。
皆がそうだった訳ではない。
だが、声高な下世話が居れば、やがて少しずつ染まる。
昔、クラスに学級会というものがあり、「誰々が廊下を走るのは、良くないと思います」とか、「校則は守りましょう」的な話をケンケンガクガクやった。
発言者の常は、多数派工作だった気がする。
コミュニケーションの中で、少数多数がわかれていく。
多数にいないと、勝ち負けとしては、敗者に分類された。
人が集まった時におこる、そのような彼是に大人子供はないのかもしれない。
入院生活の時、強く感じた。
時間の流れ方が全く違う病院の新鮮さ。
怪我という接点だけで繰り出す、あるいみ人間模様。
僕にとっての入院生活は、その二本立て。
後者は、どうも性に合わず、避けて通ろうと思った二度の夏だった。
ここまで、記してふと思った。
今、我々の国はどうなのだろうか?
バラバラな記述になってきたので、今日は突然結ぶとする。
今日は、何か静かな気がする。
ここ数日若干の賑わい。
ざわざわ、ざわざわと時が過ぎた。
本日、この時間にて小休止。
リンゴのコンポートを作り終わり、冷え始めた店内に気付き、23℃で暖房のスイッチを押した。
床から2500mmの所にある空調から、生ぬるい風が四方に吹き出した。
僕は、いつもの脚立に腰をかけ、怠惰にキャスターを吹かしている。
幾度聞いたかわからないキースギャレットのケルン。ピアノソナタのアドリブライブ。
定期的にもれる彼のうめき声が、怠惰を少し揺らしてくれる。
先程、差し入れのみたらし団子。
二本平らげ、腹具合良好。
ここから暫しひとり時間を楽しもうと欲す。
3月6日土曜日。
夜。
今宵のスタートは、読みかけの古い小説。
ケルンと同じように繰り返し、繰り返し。
ぼろぼろによれたその本に、自分の時を重ね、センチメンタルを過ごしてみたいと思う。
こんな事を記すも営業中。
本を読むのも営業中。
つくづく、不真面目な店主だと、己を笑う。
繰り返すが、今日は静かがいい。
